国民的メッセンジャーアプリ「KakaoTalk」を活用した広告戦略
韓国で広告展開を考える際、NAVERと並んで欠かせない存在が「KakaoTalk(カカオトーク)」です。韓国国民の約9割が日常的に利用するメッセンジャーアプリであり、「家族・友人・職場」すべてのコミュニケーションがこのアプリ内で完結するといっても過言ではありません。
そのKakaoTalkを中心とする「Kakaoエコシステム」は、単なるチャットアプリを超えて、ニュース、地図、ショッピング、決済、タクシー配車、音楽、ゲームなど、生活全体をつなぐ巨大プラットフォームへと進化しています。この「生活導線上の全てに広告が届く構造」こそ、Kakao広告が韓国市場で絶大な影響力を持つ理由です。
特に企業向けの広告システムである「Kakao Moment」と「Biz Message(ビジネスメッセージ)」は、ユーザーの興味・行動データ・トーク履歴をもとに高精度なターゲティングを実現。韓国では中小企業から大手ブランドまで、あらゆる業種がこのプラットフォームを活用しており、メッセンジャーを通じた“ダイレクトでパーソナルな広告”が主流になっています。
一方で、Kakao広告はNAVER広告とは性質が大きく異なります。NAVERが「検索行動」に基づいた能動的広告であるのに対し、Kakaoは「コミュニケーションの流れ」に自然に溶け込む受動的広告が中心。つまり、ユーザーが“探す前に出会う”仕組みが整っているのです。
本記事では、Kakao広告の全体構造から主要メニュー・費用体系・ターゲティングまでを体系的に解説します。特に、韓国市場で成果を上げる日本企業がどのようにKakao広告を活用しているのか、実際の予算感やクリエイティブの工夫も含めて、2025年最新版のKakao広告戦略をお届けします。
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目次 |
Kakaoプラットフォームのユーザー特性と広告の強み
“国民アプリ”と呼ばれるKakaoTalkの利用実態
KakaoTalkは、韓国におけるメッセンジャーアプリの代名詞です。2024年時点で月間アクティブユーザー数は約4,700万人を超え、韓国の人口(約5,200万人)の実に9割が利用している計算になります。10代から60代まで幅広い層が日常的に活用しており、「LINE」や「Messenger」よりも圧倒的なシェアを誇る唯一のプラットフォームです。
さらに特徴的なのは、KakaoTalkが日常のあらゆる行動の起点になっている点です。家族との会話、会社の業務連絡、買い物、ニュース閲覧、決済、タクシー配車など、その全てが完結するひとつのアプリとして定着しています。この圧倒的な利用率と接触頻度が、Kakao広告の最大の強みです。
KakaoTalkは、ユーザー1人あたりの平均滞在時間が非常に長いというデータもあります。つまり、広告主にとっては「1人のユーザーに繰り返し自然な形で接触できる」極めて希少なメディアであると言えるでしょう。
Kakaoエコシステムが生み出す“生活導線型広告”
Kakao広告のもうひとつの強みは、プラットフォームの広がりと連携性にあります。KakaoTalkを中心に、以下のような主要サービスが密接に連動しています。
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サービス |
概要 |
広告での役割 |
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KakaoTalk |
メッセンジャーアプリ(9割以上が利用) |
メッセージ広告・友達配信・リマーケティング |
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KakaoStory |
SNS投稿・写真共有プラットフォーム |
ブランドの世界観訴求・ファン形成 |
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Daum(ダウム) |
検索・ニュースポータルサイト |
検索連動広告・コンテンツリターゲティング |
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KakaoPay |
モバイル決済サービス |
クーポン配布・購買データ連携 |
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KakaoMap/KakaoTaxi |
地図・配車・位置情報サービス |
エリアマーケティング・店舗誘導広告 |
これらのサービスが一体化しているため、ユーザーは「会話中に商品を知り、地図で場所を調べ、決済まで完結する」という流れをKakao上でスムーズに行うことができます。
つまりKakao広告は、「検索→クリック」ではなく、“生活の中で自然に広告と出会う”ことを前提に設計されているのです。そのため、単なるバナーや動画ではなく、“会話の中に溶け込む広告体験”を設計できるのが大きな差別化ポイントです。これにより、CTR(クリック率)やCVR(コンバージョン率)といった数値以上に、「記憶に残る広告」「行動につながる広告」として成果を出しやすい構造になっています。
NAVER広告との補完関係とKakao独自の優位性
NAVER広告とKakao広告は、競合プラットフォームとしてよく語られますが、実際には役割が異なる“補完関係”にあります。
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観点 |
NAVER広告 |
Kakao広告 |
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ユーザー行動 |
「検索」起点(能動的) |
「会話・閲覧」起点(受動的) |
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配信タイミング |
検索意図発生時 |
コミュニケーション中/タイムライン上 |
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広告フォーマット |
検索・ディスプレイ・ショッピング |
メッセージ・タイムライン・動画・ネイティブ |
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成果軸 |
クリック・購買 |
エンゲージメント・再訪・シェア |
NAVERが“ニーズ顕在層”への広告に強いのに対し、Kakaoは“関心層・潜在層”へのアプローチに優れています。
たとえば、NAVERで「化粧水 おすすめ」と検索したユーザーに対して、Kakaoではその人の「美容系アカウントとの会話」や「関連SNS投稿閲覧」をもとに広告を出すことが可能です。ユーザーが検索する前に、最適なメッセージを先回りして届けることができます。
この「感情文脈 × タイミング最適化」の組み合わせが、Kakao広告を単なるメディア運用から“コミュニケーション戦略”へと進化させています。
Kakao広告の主要メニューと費用体系
KakaoTalk Biz Messageの活用と費用
Kakao広告の中でも最も特徴的なのが、「KakaoTalk Biz Message(カカオトーク・ビジネスメッセージ)」です。これは、企業がユーザーと“友達登録”を通じて直接メッセージを配信できる広告サービスで、いわば「LINE公式アカウント」と「メールマーケティング」の中間に位置する仕組みです。
Biz Messageには主に3種類の配信形式があります。
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メニュー |
特徴 |
活用例 |
費用目安 |
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알림톡(アリムトーク) |
予約確認・発送通知など、トランザクション系メッセージ |
EC購入確認・チケット発行・支払通知など |
1通あたり15〜30ウォン(約1.5〜3円) |
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친구톡(チングトーク) |
企業アカウントの友だち登録者に配信できる販促型メッセージ |
クーポン配布・新商品告知・イベント案内 |
1通あたり15〜ウォン(約3〜7円) |
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비즈보드(Biz Board) |
トークリスト上部に表示されるクリック誘導型広告 |
LP誘導・キャンペーン流入獲得 |
リアルタイム入札のため相場は不明 |
Biz Messageの最大の特徴は、広告が“会話の流れ”の中に自然に挿入される点にあります。単なる一方的な販促ではなく、「友達から届いたメッセージ」と同じフォーマットで表示されるため、拒否感が極めて低いのです。
また、アカウントのフォロワーを増やせば、繰り返しメッセージを配信できる“自社資産化”が可能となります。Kakao内でCRM(顧客関係構築)を行えるため、短期的なCV獲得だけでなく中長期的なロイヤリティ醸成にもつながります。
Kakao Moment Platform(ディスプレイ広告)のターゲティングとCPM/CPCの目安
もう一つの主力が、ディスプレイ広告や動画広告を統合管理できる「Kakao Moment Platform(カカオモーメント・プラットフォーム)」です。ここでは、KakaoTalk・KakaoStory・Daum・外部提携メディアに横断的に広告を配信できます。
Moment Platformの大きな特徴は、IDベースの統合ターゲティングが可能な点。Kakaoアカウントに紐づく検索履歴・会話内容・興味関心データを活用し、ユーザー属性や行動に応じた配信最適化を自動で行います。
主要な課金方式と費用相場は以下の通りです。
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配信タイプ |
概要 |
費用目安 |
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CPM(インプレッション課金) |
認知・ブランド訴求目的。1,000回表示あたりの単価 |
推定約3,000〜6,000ウォン(約350〜700円) |
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CPC(クリック課金) |
流入誘導目的。クリックごとの課金 |
推定約150〜400ウォン(約18〜48円) |
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CPV(動画視聴課金) |
15秒以上の動画再生に対して課金 |
推定約5〜10ウォン/1視聴(約0.5〜1円) |
Moment Platformでは、これらの配信をダッシュボード上で一括管理でき、年齢・性別・地域・デバイス・関心ジャンルなど細かくセグメントを指定できます。
また、KakaoTalk Biz Messageとの連携により、「広告を見たユーザーにリマインドメッセージを自動送信」するといったリターゲティング施策も可能。これにより、CVRを10〜30%向上させる事例も報告されています。費用目安はリアルタイム入札なのであくまでも目安の数値として把握しておいてください。
Kakao Story・Daumなど関連サービスとの連携
Kakao広告の強みは、ひとつの媒体に依存しない複数サービスのシームレスな連携性にあります。特に「Kakao Story」「Daum」「Kakao Pay」は、ユーザーの日常行動を多面的にカバーし、広告効果を高める重要な役割を担っています。
まず、「Kakao Story(カカオストーリー)」はInstagramに近いSNS型プラットフォームで、企業がアカウントを通じて写真や動画を投稿し、ブランドファンとの関係を築ける場です。広告はストーリーフィード上に自然に挿入される形式で表示され、視覚的に洗練されたビジュアルや動画を活用すれば高いエンゲージメントを得ることができます。
このプラットフォームは特に若年層や女性ユーザーの利用率が高く、「ブランドの世界観を伝える」コミュニケーションに最適です。
一方、「Daum(ダウム)」はKakaoが運営する韓国第2位の検索ポータルサイトです。ニュース、ブログ、コミュニティなど多様なコンテンツを包括しており、NAVERとは異なるユーザー層にリーチできるのが特徴です。特に40〜50代の利用者が多く、金融・教育・健康食品といった中高年向け商品のプロモーションにも効果的です。検索連動広告やディスプレイ広告を通じて、ブランド認知の広がりと信頼性向上の双方を狙えます。
さらに、「Kakao Pay(カカオペイ)」は、Kakao内での購買導線を完成させる決済プラットフォームとして重要な存在です。広告クリックから商品の購入、そして支払い完了までを一気に実現できるため、ユーザーが離脱するポイントを最小限に抑えられます。
また、Kakao Payと連携したクーポン配布やキャッシュバックキャンペーンを実施することで、広告からの即時購買率(インスタントCV)を高めることも可能です。
このように、Kakao Storyで興味を喚起し、Daumで情報を補完し、Kakao Payで購買を完結させるという一連の流れが、Kakao広告を単なる配信プラットフォームから“購買体験を設計できる広告基盤”へと進化させています。中でも、Kakao Story × Moment × Biz Messageの構成は、マーケティング上重要となる「認知 → 興味 → 行動 → リピート」までの流れを一気通貫で設計できる“成果を出しやすい鉄板モデル”として多くの企業が採用しています。
まとめ|Kakao広告は「生活導線をデザインする」マーケティングチャネル
韓国におけるKakao広告は、もはや単なるデジタル広告ではありません。それは人々の“日常会話の延長線上にあるマーケティング”です。
KakaoTalkという生活インフラを中心に、Story・Daum・Pay・Momentといった複数のプラットフォームが連携することで、ユーザーの行動や感情の流れに寄り添った広告設計が可能になっています。
特に、日本企業にとって重要なのは、「会話の文脈に溶け込む設計」と「ローカル文化への最適化」です。NAVERが検索意図に基づく“能動的広告”だとすれば、Kakaoはユーザーが“気づく前に出会う受動的広告”であり、そこにブランドの親近感を生むチャンスがあります。
Biz Messageによるダイレクト配信、Momentのターゲティング精度、そしてStoryやPayとのクロス連携を組み合わせることで、「認知 → 興味 → 購買 → 継続」という購買体験をワンストップで構築できるのが最大の魅力です。
今後、韓国市場におけるブランド戦略を考えるうえで、Kakao広告は“運用型広告”という枠を超えた顧客コミュニケーションプラットフォームとして位置づけるべき存在です。ユーザーの日常を理解し、その中に自然に入り込むことこそが、Kakao広告で成果を最大化するための最も本質的なアプローチなのです。

| WRITER / demio 株式会社ジャリア福岡本社 WEBマーケティング部 クリエイティブディレクター 株式会社ジャリア福岡本社 WEBマーケティング部は、ジャリア社内のSEO、インバウンドマーケティング、MAなどやクライアントのWEB広告運用、SNS広告運用などやWEB制作を担当するチーム。WEBデザイナー、コーダー、ライターの人員で構成されています。広告のことやマーケティング、ブランディング、クリエイティブの分野で社内を横断して活動しているチームです。 |
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